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ミニマリスト見習いのアラサー女。最小化計画の進捗と、本・音楽・映画の感想

M. Sctott Peck「平気でうそをつく人たち」

平気でうそをつく人たち―虚偽と邪悪の心理学

平気でうそをつく人たち―虚偽と邪悪の心理学

ずっと読もうと思いながら忘れていた本が出てきたので、読んでみた。

原題は、"People of the Lie: The hope for Healing People Evil" 原題で明らかにされているように、精神科医である著者が「邪悪な人々(=虚偽の人々)を治療できないだろうか」という提言をしている。治療をするということは、悪を「科学的」に研究することであり、哲学書とは趣旨が違うので注意。

この本の中で、著者は非常に丁寧に「悪」について考察している。彼の息子が「悪(evil)のつづりは、生きる(live)の逆なんだね」と言ったエピソードが印象的で、著者はここから「悪とは、人間の内部または外部に住みついている力であって、生命または生気を殺そうとするものである」と記している。

では、著者のいう「邪悪な人々」とはどんな人々かというと、単なる犯罪者を指しているのではない。自身の罪悪に気付いていながら、それを隠そうとして膨大な嘘をついたり、周囲の人間を平気で傷つけたり陥れたりする人々、のことである。貴志祐介の「悪の教典」についての記事でサイコパスの話を出したが、著者はサイコパスと「邪悪な人々」は別物であるとしている。サイコパスが罪悪を感じないのに対し、邪悪な人々は罪悪、やましさを認識したうえで隠そうとしているからである。

本書の中で「邪悪な人々」の実例がいくつか紹介されている。本当に、どれをとっても非常に不快である。不快であると同時に、自分の周りにもこういう人がいるなぁと思いついて、妙に納得してしまったりもした。彼らといると自分の生気が奪われていく感じがするのは、彼らがevilだからなのかもしれない。著者の言うとおり、彼らは周囲をスケープゴートにして、自分の身を守っているのである。

本書において、保身に膨大なエネルギーを費やしている「邪悪な人々」について考察するうえで、ナルシシズムはかなり重要な位置を占めている。著者は邪悪な個人についてのみでなく、邪悪な集団についても考察しているが、このナルシシズムはやはり大きな影響力をもっている。

内容は非常に面白いけど、少しくどい感じがした。あと、「ざ折」とか「軽べつ」とか、二字熟語を漢字とひらがなで表記するのはやめてほしい。非常に読みづらい。様々な読者層を狙ってのことかもしれないが、そもそも「挫折」や「軽蔑」を読めないような向上心のない大人がこの本を手に取る可能性は低いだろうと思うし、知識欲の豊富な子どもの読者に気を遣うならふりがなをふればいいだけの話だ。くどさも、もしかしたら翻訳者の問題かもしれないなぁ。原書を読まないと判断できないけど。つーか、ちゃんと編集したのかな。

まぁ、翻訳に対する不満は別にして・・・邪悪な人々は特別な存在ではなく、自分たちの周囲に「普通に」存在するという点で、心理学に興味がある人はもちろん、誰が読んでも興味深い内容だと思う。たまに熱を帯びる部分もあるけど、「悪」を研究対象とすることに伴う危険性なんかも論じられていて、全体的に冷静で落ち着いた作品。